名古屋地方裁判所 昭和31年(ワ)1316号 判決 1959年4月15日
名古屋市西区江中町二丁目六番地
原告
北川清弘
右訴訟代理人弁護士
山本法明
野村均一
大和田安春
被告
国
右代表者法務大臣
愛知揆一
右指定代理人
栗木義之助
鈴木伝治
森茂樹
原邦雄
右当事者の昭和三十一年(ワ)第一千三百十六号損害賠償請求事件について、次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告は原告に対して金六十万円及びこれに対する訴状送達の翌日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として
一、別紙目録記載の物件は原告の所有に属するところ被告の行政機関である昭和税務署長は原告が代表社員をしていた訴外北川製菓合資会社(昭和二十五年七月二十九日解散し原告がその清算人となつて清算手続に入り該手続は、未だ結了しておらない)に対し昭和二十四年四月より同年七月三十一日に至る期間の法人税金十六万九千七百十一円、同附加税金七千五百六十円及び認定所得税金十一万七千百五十円同加算税金四万五千五百七十四円合計金三十三万九千九百九十六円、昭和二十五年二月一日より同年七月二十六日に至る期間の法人所得税五万九千六百八十円、所得過少申告による税金二千九百五十円及び追徴税金六千八百五十円認定所得税金八千二百七十四円合計金七万七千七百五十四円と過大な課税を決定し、右訴外会社に対する昭和二十四年度分法人税源泉所得税及び延滞加算税合計金三十三万九千九百九十六円(納期昭和二十四年十一月二十五日)の計算に基き国税滞納処分の執行として、昭和二十六年九月二十日右別紙目録記載の物件が右訴外会社の所有に属するものとしてその差押をなし、その後右訴外会社の異議申立により昭和二十年十二月前記該当年度の法人所得税額を金二万九千六百九十四円に訂正決定をなしたので、訴外会社は直ちにこれを納付して滞納額はなくなつたのであるが、右差押は未だに解除せられていない。
二、よつて右差押は不当なることが明らかであると共に少くとも右訴外会社の滞納税金の完納によつて遅くも昭和二十九年七月一日に解除せらるべきであつたのに右税務署長はその挙に出でず腐敗しやすい右差押物件の換価処分をもしないで放置していたため、腐敗損殼せしめ、よつて原告に対し右差押当時における右物件の価格たる金百二十八万七千百六十六円六十銭相当の損害を蒙らしめたのでここに原告は被告に対し右損害額の内金六十万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日より完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の賠償支払を求めるため、本訴請求に及ぶ。と述べ被告の時効の抗弁を否認し、認拠として、甲第一、二号証三号証の一乃至四を提出し、証人岡地良雄の証言並に原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立を認め、同第二号証中印影の部分の成立を認め、その余部分の成立を否認した。
被告指定代理人は主文第一・二項同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の請求の原因たる事実中別紙目録記載の物件が原告の所有に属する点、課税決定が過大である点、訂正決定の点、差押物件の価額の点、差押の解除せられていない点を夫れ夫れ争い本件差押は右訴外会社に対する昭和二十八年七月二十四日昭和二十四年度法人税を金二千八百四十五円、加算税を金百十二円合計二千九百五十七円と更正したのである。と附陳した外その余の点を認め、同二の点はすべてこれを争い、右差押物件は右訴外会社の営業たる菓子製造のための原料及び容器等であつて、何れも同訴外会社の所有に属し、原告個人の所有物ではない。昭和税務署長は、昭和二十八年三月九日訴外会社の昭和二四年度分の国税が完納されたので、同日同署総務課徴収係長後藤徳樹をして本件物件に対する差押を解除させ、その旨訴外会社の清算人たる原告に口答で通知させたから、被告には何等不法行為の廉はない。仮に右差押物件が原告の所有に属し、被告に不法行為の廉があり原告に損害を生ぜしめたものとしても右差押物件は差押前よりすでに長く保管せられていたもので、本件差押当時著しく変質損殼していて、その見積価額は僅に合計金二一万五千百八十円にすぎなかつたのであり、しかも原告の本訴請求は遅くも前記昭和二十八年三月九日より三年以上を経過して昭和三十一年八月十一日になされたものにして本訴提起当時既に時効完成により右損害賠償債権は消滅しているから、被告はここに右時効の利益を援用する。
仮に然らずとするも右差押物件は右差押と同時に右訴外会社の元従業員訴外岡地良雄をして同会社内において保管させていたのであるから右訴外会社は当時既にその損害発生の可能性を熟知しながら同税務署長に対し何等注意を喚起することなく、右差押物件の腐敗損毀するのを拱手傍観していたのであるから、その損害の発生については右訴外会社にも過失があつたものといわざるを得ず、よつて損害額の算定については右過失を斟酌されるべきものであり、被告は過失相殺の主張をする。と述べ、
証拠として、乙第一、二号証を提出し、証人井上通至、後藤徳樹の各証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。
理由
案ずるに別紙目録記載の物件が原告個人の所有に属する事実は原告の提出援用にかかる全証拠によるもこれを認め難く、却て、証人井上通至、後藤徳樹、岡地良雄の各原告本人尋問の結果並に弁論の全趣旨を総合すると、原告はかねて菓子の販売の個人営業をしてきたが、昭和二十四年四月六日訴外北川製菓合資会社を設立して従来の個人営業を廃止し、個人所有であつた右営業用諸設備原材料をすべて会社に出資して法人組織に改め、爾来同会社の業務に従事していたこと、本件差押はその後昭和二十六年九月二十日になされ、(この差押の点は当事者に争いがない)右差押物件はすべて右訴外会社の工場内に存在しており、しかも菓子及びその原料が主であつて半年位すれば変質する虞のあるようなものもあり到底長く保存のきかぬものであることが推認せられるので右物件は原告個人の所有に属するものではなく製菓業を営む右訴外会社の所有に属していたものと認めざるを得ない。
果して然らば原告が右差押物件を所有することを前提とする本訴請求は、その余の点について判断するまでも理由のないことが明らかであるのでこれを棄却し民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小沢二朗 裁判官 榊原正毅 裁判官 角田恭子)
目録
<省略>
合計金壱百弐拾八万七千壱百六拾六円六拾銭也